絵画にしかできないことってなんでしょう。この問は、絵画の存在意義にも関わることなので、少しお話したいと思います。
まず始めに、予備知識として次の二点を抑えてください。
1.言葉で言えることは絵画本来の仕事ではない
2.絵画は本来見るためのもの、見て何かを感じるためのもの
1.に関しては、「言葉による説明不足を絵で補う」、という使い方があります。聖書の物語の図解や、小説などの挿絵などがその例です。この場合、絵画は説明のための補助手段として使われています。でもこれは、絵画本来の仕事とは言えません。
絵画でも、彫刻でも、造形手段と内容が一致しているかどうかが、一つの評価基準になりますが、造形手段である色、線、形などを使うにあたって、それらにできないことを無理にさせると、必ず歪んだ表現になります。例えば、色や、線や、形に、何か話せと言ったところで、無理な話です。ところが案外これに近いことをやろうとしてしまうこともあるんです。
2.に関しては、これが絵画の基本です。画家が、意味を伝えることに力を入れていた近代以前の作品であっても、印象深い作品は、視覚を通して感覚に訴える力の強い作品です。
以上の二点から、絵画にしかできないこととは、『色、線、形、といった造形手段が本来持っている力を充分に発揮させ、視覚を通して感覚に訴えること』と、ひとまず言うことができます。
上記の定義を詳しくお話します。
色、線、形、をどう考えるか
「視覚を通して感覚に訴えるもの」を作るとき、造形要素としてふさわしいのは、言うまでもなく色、線、形です。
でも、色、線、形、を「何か意味のある形を作るための手段」として使うのではなく、「色、線、形が形象化する以前の状態」を保つことのほうが重要です。
この状態のときにこそ、色、線、形、が本来持つ力を充分に発揮させることができるからです。
他の言い方をすれば、「色、線、形、に余計なことをさせない」ということです。つまり、「何かに似せるために、色や線を必要以上に使ったり、何かの輪郭を線でなぞったりしない」ということです。
画家は、絵画にしかできないことを考えるとき、色、線、形、をこのようなものとして考えます。
視覚を通して感覚に訴えかけたいこととは
画家が何よりも目指すことは、対立関係の解消です。
この、対立関係が解消した感覚を、視覚を通して伝えたいのです。
対立関係の解消とは、画面上での色、線、形、の複雑な対立関係を、「互いに損なうことなく支え合っている」という関係にすることです。
色、線、形が、「意味の伝達」や「物の形の再現」に使われずにすむなら、つまり、色、線、形を形象化以前の状態で使えるなら、対立関係の解消を実現しやすくなります。
その代わり、表現は抽象的になり、絵画に再現性を求める方にとっては、わかりにくいものになってしまいます。
今回の話は、抽象的な説明になってしまい、わかりにくかったと思います。すみませんでした。
まとめ
写実的な絵を描く画家も、抽象絵画を描く画家も、色、線、形という同じ造形手段を使いますが、それらを、何かの目的のための二次的な手段として使うか、それら自身が本来持っている力を充分に発揮させることで、対立関係の解消に特化した表現を目指すかは、人それぞれです。
ただ、絵画にしかできないことを考えた場合、次の定義が結論になります。
『色、線、形といった造形手段が本来持っている力を充分に発揮させ、画面上 ”対立する力どうしが、互いに損なうことなく支え合っている” という関係を実現すること』
上の定義を純粋に追求していくと、単調な抽象表現になると思われるかもしれません。
でも、工夫次第では、絵画の特性である重層性を保つことは可能です。
重層性については、また別の機会にお話したいと思います。
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