あなたは、絵画の良し悪しをどうやって決めていますか。あなた自身の感性に基づいた確固たる基準をお持ちならそれに越したことはありませんが、次のような疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。絵画の良し悪しを決めるのに、
・統一的な美の基準でもあるのか
・人気や値段はどう関わってくるのか
・名画として残っている作品を基準にしているのか
・時代に応じた価値観の変化は関係するのか
他にも挙げればきりのない疑問があるかもしれません。今回の話によって、これらの疑問自体あまり意味のないもの、ということに気づいてもらえると思います。
絵画は何かを伝えるためのものと考えると、その目的にかなっている絵が、良い絵と言えます。これが結論です。この結論を詳しくお話しする前に、絵画の目的を大きく分類しておきます。なぜなら、目的の違う絵を同じ基準では評価できないからです。
2つの絵画の目的 真理追求と概念伝達
絵画の目的を大きく2つに分けると、真理追求型と概念伝達型になります。
これは大まかな分類ですが、意外と使えるんですよ。
真理追求型は、絵画における真理や、美の追求を目的とした作品です。
絵画における真理は画家によって言い方は変わるかもしれませんが、私の場合、「目に見えるものは、目に見えないものとの関係において成り立つ」「現実は、反現実との関係において成り立つ」と感じているのですが、この感覚をもとに、「自分と周りの自然との折り合いをつけること」、「内的世界と外的世界とのつながりをつけること」が真理の追求につながると考えています。
概念伝達型は、概念で捉えられることを、視覚情報を通して、よりわかりやすくその意味を伝える絵画のことです。
例えば、
- 『絵に込められた意味を、見る者が読み取る』というタイプの作品(近代以前の多くの絵画が、このタイプです)
- 『美術の存在意義』や、『基準』を揺るがすことに大きく貢献した、デュシャンや、ウォーホルの作品など
この分類をある程度しておかないと、絵画を評価するとき、全く見当違いの基準で評価するようなことが起こってしまいます。
すべての絵画を一つの統一基準で評価する、という方法もありますが、過去の作品をそれで評価すると、絵の真意を見落とすことになります。
一つ付け加えますが、この2つの型は、お互いに関連しあいます。例えば、古代ギリシャでは、絵画作品はほとんど残っていませんが、彫刻作品などを観察すると、彼らは美を追求し、それを概念で捉えようとしました。
ですから、この2つの型は、『真理』と『概念』のどちらを優先させたかに基づく分類と考えてください。ここで先ほどお話した結論を補足します。
絵画を、真理追求型と概念伝達型に分けたとき、それぞれの目的にかなっている絵が、良い絵である。
どうしても言いたい、プラスαの条件
『真理を追求すること』、『概念を伝達すること』これらの目的にかなってさえいれば、良い絵である。
これで終わりと言いたいところですが、これだけでは、絵にする意味があまり見えてきません。絵画表現との必然性が感じられません。プラスαの条件が必要です。
そもそも絵画は、見るためのものです。デュシャンが、『視覚のためのアート』が『思考のためのアート』になりえることを示したときでさえも、概念の伝達を優先させただけで、見るという行為を否定したわけではありません。『見るという行為を通して感じたこと』をおろそかにしては、絵画は成り立ちません。
画家は、写実画を描こうが、抽象画を描こうが、見たから描いたのです。
たとえ対象やモデルを見ないで描く場合でも、過去に何かを見て何かを感じたから描いたのです。決して頭の中の空想が出発点になることはありません(もしそうだとしたら、絵画は、自然とは関係のないものになってしまいます)。
ですから、『見て何を感じたか』は絵画の良し悪しを決める重要な条件になるわけです。そこで、見て何を感じたら『良い絵』と言いたくなるか、少し挙げてみます。
・目の楽しみになるもの
・心の安定の助けになるもの
・感覚の広がりを体験させるもの
・非日常的な体験をさせるもの
・生き生きとした生命感を感じるもの
・美しいと感じるもの
結構、挙げたらきりがありませんが、見る人の感性に応じてさらに増えると思います。つまり重要なことは、人に良い影響を与えるものを感じるかどうかです。
これは見た目ではわからない場合もあります。例えば、一見穏やかで美しく、広々とした風景画でも、しばらく見ているうちに、どうしようもない窮屈さを感じて退屈してしまうこともあります。
『見たことを理解する』と、『見て感じる』は違うわけです。ポイントは、『見て何を感じたか』です。
そこで、結論プラスαは次のようになります。
絵画を、真理追求型と概念伝達型に分けたとき、それぞれの目的にかなっている絵で、さらに、「人によい影響を与えるもの」を見て感じられる絵が『良い絵』である。
もうひとつ、魅力的な作品の条件も付け加えておきます。
精神の無意識的領域から生まれた作品は、『魅力的な作品』である。
まとめ
基本、物の良し悪しは、目的にかなっているかどうかです。
絵画の目的は、大きく分けて、『真理の追求』か『概念の伝達』ですから、この目的をよりうまく達成した作品が、『良い絵』です。
ですが、絵画の存在意義を考えると、もうひとつ重要な条件があります。それは、見て感じたことが、人に良い影響を与えるかどうかです。
絵は見るためのものですから、見て感じたことが重要です。
もっと強く言えば、見ることを通してしか感じることができないことが重要です。(これがなければ、画家がわざわざ絵を描く必要もなくなります)
その、見て感じたことが、人に良い影響を与えるなら、それは『良い絵』といえます。
絵を見るとき、その絵が目的にかなっているか、その絵を見て何を感じるか、ちょっと注意してみることをおすすめします。その絵が、あなたにとって『良い絵』になればいいですね。
*備考
『真理追求型』の作品を残した代表的な画家を挙げておきます。かなり厳選してあります。
レオナルド・ダ・ビンチ
ヒエロニムス・ボス
ジョルジョーネ
パオロ・ウッチェロ
ドミニク・アングル
ギュスターヴ・モロー
ポール・ゴーギャン
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