まず最初に言葉の意味を少し整理させてください。
リアルを次に2つに分けます。
- 現実のあるがままのリアル(現実の存在ものそのものに対する実感)
- 表現のリアル
そして、表現のリアルとは、創作物に込められたリアルのことで、
- 真に迫った現実感が感じられること
- 生き生きとした存在感にあふれていること
などと言えます。
創作物に感じるリアルは、次の2つに分けます。
- 現実には存在しないもの(例えば、天使や、龍や、ユニコーンといった、想像上の存在)に対して感じるリアル
- 現実に存在するものの再現に対して感じるリアル
1.に関しては、現実には存在しないものに対する脳内イメージと表現が一致したとき、生き生きとした存在感を感じます。
今回の話の中心は、2.に関してです。
現実に存在するものの再現ですぐに思い浮かぶのは、バーチャル・リアリティです。
現実の体験ではないにもかかわらず、脳内臨場感は、実体験とほとんど変わりません。
もし、人間の創作物がめざすリアルが、実体験に近い体験の、脳内での再現のみだったなら、その最終ゴールは、ヴァーチャル・リアリティといってもいいですよね。
もう一つ思い浮かぶものは、写真です。
19世紀はじめに、写真が登場したとき、もし、画家のめざすリアルが、現実の形の、寸分たがわぬ再現のみだったなら、その最終ゴールは、写真だったはずです。
写真の登場をもって、画家の仕事は終了です。ですが、それ以降も画家は、写実絵画を描き続けています。
それでは画家は、現実に存在するものの再現を通して、何を実現したいのでしょうか。
それは、生き生きとした存在感の実現です。
それにはどうすればいいのでしょうか。
結論を言いますと、
視覚情報に頼りすぎない。
ということです。
実際、現実の存在そのものに対する実感は、視覚、視覚以外の感覚、知識、無意識、体験、記憶、感情、その他もろもろを、総動員して作られます。
表現のリアル(生き生きとした存在感)の実現にも、視覚以外のもろもろが必要なはずです。
そこで今回は、表現のリアルの実現のためには、写真と絵画どちらが有利かについてお話しします。
表現のリアルを実現するには、写真と絵画どちらが有利か
形の描き方を写真に学ぶと、写実絵画は、生き生きとした存在感を獲得するか
実物を肉眼で見るときと、写真に写された同じものを見るときとでは、決定的な違いがあります。
それは、「実物を見るときは、視覚以外の感覚も総動員して見ますが、写真の画像を見るときは、見ているものは、あくまでも画像ですから、視覚情報に頼るしかない」という点です。
ですから、実物そっくりに描かれた写実絵画が、写真に近いものになればなるほど、その印象は、実物からどんどん遠ざかっていきます。
視覚情報に頼りすぎると、
生き生きとした存在感が失われていくわけです。
生き生きとした存在感を実現するには、視覚以外の感覚も刺激する工夫が必要だということがわかります。
色の使い方を写真に学ぶと、写実絵画は、生き生きとした存在感を獲得するか
写真に再現された色は、我々が、実物を見たときの色の印象とは異なります。
決定的な違いは次の2つです。
- 写真の色は、ほとんどの場合、複雑で微妙な色合いが抜けてしまっている
- 写真では、すべての色が、ほぼ均一に再現されてしまう
この事実から、写真の色をそのまま使うわけにはいかないことがわかります。
なぜなら、絵画で生き生きとした存在感を実現するには、複雑で微妙な色合いが不可欠ですし、すべての色を均一な状態で使ってしまうと、色彩による感情表現もできにくくなるからです。
ちなみに複雑で微妙な色の変化は、光の劇的な効果が欲しいときには不可欠な要素です。
また複雑で微妙な中間色調は、無限の多様性の実現にはなくてはならない要素です。
以上のことから生き生きとした存在感を実現するには、写真に再現された色はあまり参考にはなりません。
遠近法や構図を写真に学べば、写実絵画は、生き生きとした存在感を獲得するか
写真は、例えば風景写真などは、自然の一部を切り取った画像ですから、それらは自然の断片にしか見えず、実際の自然を見たときの開放感を感じることはできません。
ですから、写実的な風景画で、写真と同じ構図を採用すると、自然の一部を切り取ったことからくる閉塞感に邪魔され、生き生きとした感覚を実現しにくくなります。
そこで画家は、
- 遠近法を画面の数カ所にいれる
- 遠近法をわざとゆがめる
- 描こうとする対象の実際の配置を変える
など、いろいろ工夫して、画面を開放的にすることがあります。
生き生きとした存在感を実現するには、写真どおりの遠近法や、構図は、あまり参考にはなりません。
まとめ
今回は、写実絵画で、表現のリアル(生き生きとした存在感)を実現するために必要なことを、写真との比較を通して考えてみました。
写真を参考にして、形や、色や、構図を決めても、写実絵画が、生き生きとした存在感を持つとは限りません。
生き生きとした存在感を実現するには、いくつかの工夫が必要です。
- 視覚情報に頼りすぎない工夫が必要
- 視覚以外の感覚を刺激する工夫が必要
- 複雑で微妙な色使いが必要
- 画面を開放的にする工夫が必要
- 想像力を刺激する工夫が必要
単に写実的な絵画よりも、象徴的な、再構成された、絵画のほうが、より生き生きとした存在感を持つ理由は、これらの工夫がされているからです。
画家たちのこれらの工夫に注目して見ると、写実絵画の魅力により深く触れることが出来ると思います。
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