絵画の感想を言い合う場面で、話題にのぼることが一番多いのは、感情表現に関することじゃないでしょうか。
でも、ちょっと意外かも知れませんが、画家にとって感情表現はそれほど重要な問題じゃないんです。
そもそも、画家の創作活動において、感情表現の占める割合は、それほど大きくないんです。
今回は、画家はなぜ感情表現をあまり重視しないか。
その理由を中心に話していきます。
絵画に感情表現は必要か
絵画による感情表現は可能か
絵画を見たときに人が感動する第一原因が、感情表現であれば、画家は、感情表現をもっと重視します。
でも、実は、そうでもないんです。
なぜなら、絵画は、感情表現が苦手だからです。
もう少し、詳しくお話しします。
人は、どんなものに本当に感動するのでしょうか。
- 大きな優しさ
- 偉大な愛
- 人並み外れた勇気
- 強い使命感
人を感動させる要素をいくつかあげてみましたが、これらはみな、強く感情が揺さぶられるものです。
もし、実生活でこれらに触れたら、きっと強く記憶に残ることでしょう。
でも、絵画でこれらを表現することは、ほぼ不可能です。
そもそも絵画では、感情を伝えにくいからです。
本来未分化で、分類しにくい感情を、絵画で伝えようとしたら、まず、大まかに感情を分類する必要があります。
そして、分類した感情(喜怒哀楽など)を顔の表情や、身振りや、サインランゲージなどを駆使して、説明することになります。
そうすると、絵画は、「感情の単なる説明図」になることがあります。
これでは絵画の存在意義が薄れてしまいます。
そもそも感情を強く揺さぶられて感動すると言うことは、
絵画ではあまり考えられないことです。
人は絵画の何に感動するのか
ではいったい人は、絵画の何に感動するのでしょうか。
もちろん絵画の何に感動してもかまいません。
あなたの感性に基づいて、何に感銘を受けてもかまいません。
画家は、それも楽しみにしています。
でも今日のテーマは、画家の本音ですから、
- 人は、絵画の何に感動するのか
- 画家はいったい何を重視しているのか
についてお話しします。
実際、感情表現の見事さに感銘を受ける作品もありますが、それらの作品は、「何度見ても飽きない」というものではないことが多いのです。
例外もありますよ。
例えば、ラファエロの聖母子像。下の図版は、『草原のマドンナ(ベルヴェデーレのマドンナ)』 1506年 113cm×88cm 油彩、パネル 美術史美術館(ウィーン)です。
「崇高な感情の説明図」と見られる部分もありますが、全体として、「対立関係の解消」が実現されていて、実に生き生きとした存在感が感じられます。
例外はさておき、絵画を見たとき、人は何に感動しているのか。
結論は、
すみません、よくわかりません。
これが本音です。
でも画家は、絵を描くにあたって何が重要かはわかっていますよ。
それは、視覚以外の感覚を刺激するということです。
なぜなら、視覚情報だけでは人は感動しないからです。
絵画を観て感動するとき、人は視覚だけでなく他のすべての感覚、「ものの見方」、「感じ方」、「過去の記憶」、「知識」、その他もろもろを総合的に働かせた結果、感動します。
ですから、描くときも、観るときも視覚に頼りすぎないことが重要なのです。
もう一つ重要なことがあります。
それは、「絵画の基本機能」が果たされていることです。
絵画の基本機能とは、
- 周りの自然との折り合いをつけること
です。
周りの自然と折り合いをつけるとは、
目に見える対象(自分も含めて)と目に見えない対象(空間)との間の
対立関係を解消することです。
この「対立関係の解消」こそ人の心に安定をもたらす、
時代や地域や好みを超えて通用する、
普遍的原理です。
事実、人を感動させる作品は等しく、「対立関係の解消」が実現されています。
以上、”視覚以外の感覚を刺激する” と ”対立関係の解消を実現する” の2つが画家が知っている、
絵画に必要な最重要要素です。
次に考えられる、画家が制作過程で解決を迫られる
重要要素は次の通りです。
- 見る人の想像力をどう刺激するか
- 美しさをどう実現するか
- 非日常的な感覚をどう刺激するか
- 現実を支えている反現実にどう気づかせるか
などです。
これらを解決することに比べたら、画家の創作活動全般の中で、感情表現の占める割合は、それほど大きくはありません。
この問題については、現在出版中のKindle電子書籍でさらに詳しく解説しています。
興味のある方はぜひ、参考にしてみてください。
誰も教えてくれない『絵画の見方』 美術愛好家でも意外と知らない、一生役に立つ2つの極意
まとめ
感情表現は、絵画にとっては、それほど重要な要素ではありません。
そもそも絵画は、感情表現に向いていないからです。
それを無理に追求すると、「単純に分類された感情の単なる説明図」になりかねません。
たとえ、その見事な感情表現に感動できる作品でも、感情表現だけでは、何度も見ているうちに飽きてしまいます。
人が絵画を観て感動するときは、視覚以外のあらゆる感覚や、その他あらゆる力を総合的に働かせているので、絵画は描くときも観るときも、視覚に頼りすぎないことが重要です。
そして、画家がなによりも重要視していることは、絵画の基本的機能である、
『内的世界と外的世界とのつながりをつける』
つまり、対立関係の解消を実現することです。
これら2つに比べたら、絵画にとって感情表現は、それほど重要ではありません。
美術愛好家の皆さん、絵画を見るときには、このことも思い出してもらえるとうれしいです。
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