『絵画鑑賞のすすめ』・絵を観ることは創造的な行為だとご存知ですか。創造的絵画鑑賞法を紹介

美術批評
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あなたは絵画を “見る” こと自体が創造的な行為だということに気づいていますか。

絵を ”描く” ことだけが創造的行為なのではありません。

実際は、「見る(観る)」という行為そのものが創造的行為と言えるのです。

これを説明するには、まず、「見る」という行為の本来の目的を考える必要があります。

人間にとって「見る」とは何を意味するのか。

これを知るには、原初の世界にまでさかのぼってイメージするのがいいかと思います。

ここであなたに、原始人になったつもりで、人間が言葉を持つ以前の状態をイメージしてもらいたいのです。


目の前には、まだ言葉によって分類されていない光景が広がっています。

そんな中であなたが生き残るためには、まず何が必要ですか。

「目の前のものは、生きるに必要なものか、生きる妨げになるものか」

を知ることではないでしょうか。


これを探るには、誰もが「見る」から始めるはずです。

「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触る」の前に、まず「見る」から始めるはずです。

「見る」を通して、受け入れるかどうかを探り、折り合いをつけられるかどうかを考え、今後のために覚えておくのではないでしょうか。


つまり「見る」という行為のいちばん重要な目的は、

「生き残るために、周りの自然との関係を創ること」

だったのです。

その後、見たものをより明確に記憶にとどめたり、分類したりするために、絵を描き出す者が現れたと考えられます。

ですから私は、絵というものはあくまでも、この「見る」という行為を補う工夫として始まったのではないかと考えています。

その後言葉を持った人間は、目に映るものを言葉に置き換え、コミュニケーション能力をますます発達させてきました。

でもそれと引き換えに、「見る」という行為を創造的に使う必要がなくなってきたわけです。


今回の話は、そんなことを頭においた上で聞いていただけたらと思います。



ちなみに私が絵を描く第一の目的は、自分の「内的世界」「目に見えるものを成り立たせている目に見えない世界」との間につながりをつけることです。

このとき私は、「見る」ことを通して「私」と「周りの自然」との折り合いをつけようしています。

これは、「私」と「周りの自然」との関係を創ることです。





今回は前置きが長くなってしまってすみません。

それでは、今回のテーマです。

  • 『絵を見る行為と創造性の関係』
  • 『創造的絵画鑑賞方法』

創造的絵画鑑賞方法に関しては、実践方法も紹介しています。



絵画を見る行為と創造性の関係

絵画を見る行為は工夫次第で創造的になる

あなたは、”人から与えられた楽しみ” と ”自分で見つけた楽しみ”、どちらの楽しみのほうが長続きしますか。

答えはおそらく ”自分で見つけた楽しみ” のはずです。

”人から与えられた楽しみ”は、一度体験したら十分という人が多いのではないでしょうか。

一方、 ”自分で見つけた楽しみ” は、何度も体験したいと思う人が多いのではないでしょうか。

この差はどこから来るのでしょうか。

その楽しみが自分の心が欲するもので、自分が主体的に望んだものだからかもしれません。

ですが、一番のポイントは、その楽しみがその人にとって創造的なものだからです。

はたから見ていると、同じことをただ繰り返しているように見えても、体験者本人は、「自分なりのこだわりや価値」を楽しんだり、「複雑で微妙な差」を味わったりしているものです。

それはまさに創造的な行為です。

この考え方を絵画鑑賞に当てはめてみます。


『概念伝達型絵画』
を観るには、約束事の知識が必要なので、この場合パターンで観ることになります。

『真理追究型絵画』を観るには、造形要素の分析が必要なので、この場合分析的に観ることになります。

どちらの見方も重要ですが、創造的な見方とは言えません。

創造とは、「すでに存在するものどうしの新しい関係を創ることによって、新しい意味を生むこと」と考えられるからです。

あなたが絵を創造的に観るには、まずあなたの絵画に対する関わり方を変える必要があります。

具体的には、

「他人が分類した知識や分析方法といったフィルターを通して絵画を観る」から

「他人のフィルターを通さずに、自分の感性に基づいて絵画を観る」に変える必要があるわけです。

言い換えると、

他人の目を通して絵画を見る」から

自分の目で絵画を観る」に変えてみるわけです。


「他人の目を通して絵画を見る」ことは、答えが決まっている問題を解くようなものです。

一方、「自分の目で絵画を観る」ことは、自分で問題を設定して、答えを見つける行為です。

どちらが創造的かは一目瞭然です。

創造的な絵画鑑賞で得られる効果

創造的な絵画鑑賞では、次の2つの効果が期待できます。

  1. 何かを生み出す喜びが味わえる
  2. 絵画鑑賞の楽しみの持続

1 に関しては、人は誰でも、他人が生み出したものに心から満足することは少ないのではないでしょうか。

なぜなら、他人が自分の好みにピッタリあったものを生み出してくれるとは限らないからです。

でも、自分が主体となって何かを生み出したときは、格別な喜びを味わえるものです。

創造的絵画鑑賞を実践すると、あなたはその喜びが実感できるはずです。

創造的絵画鑑賞とは、あなた自身の感性に基づいて絵を観ることなので、あなたは主体的に行動せざるを得なくなり、その結果何かを生むことになるのです。

それが何かはあなた次第ですが、紛れもなくあなたにしか生み出せないオリジナルな何かです。


2 に関しては、1 からの当然の結果です。

なぜなら、創造的絵画鑑賞を通して何かを主体的に生み出したあなたは、なんら人に影響されることなく、絵画鑑賞の楽しみを自分の意志で自由に持続させることができるからです。



創造的絵画鑑賞法とはなにか

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Photo by Clem Onojeghuo on Pexels.com

創造的絵画鑑賞法とは、次の2ステップからなります。

1.あなたにとっての絵画の存在意義を自覚する。

2.あなた自身の感性に基づいて絵画を観る。

たったこれだけです。

でもこれがとても重要なので、詳しく解説していきます。


創造的絵画鑑賞法に必要なこと その1

まず第一に、「あなたにとっての絵画の存在意義」を自覚してもらいます。

これがはっきりしないうちは、主体的に絵を見ることは難しいはずです。

まずは、あなたにとって絵はなんの役に立つのか、どんな意味があるのかをはっきりさせることが必要です。

これを考える前に、一般的に一つの絵に含まれる「絵画の働き」、「効用」などを知っておくと便利です。

以下に、いくつか挙げてみます。

  • 空間を装飾する
  • 意味を伝達する(物語、教訓、約束事、象徴性など)
  • 画家の意図を伝達する
  • 目の楽しみを提供する
  • 感覚の広がりを体験させる(非日常的体験 など)
  • 心の安定の助けになる


これらの「絵画の働き」は、一つの絵に統合されている場合もあれば、一つの作品が一つの働きに特化している場合もあります。

「あなたにとっての絵画の存在意義」は、これらの働きを参考にして決めてもいいですし、もちろん、あなた自身が思いついた意義から決めてもかまいません。

大事なことは、あなたの本音が反映されているかどうかです。

あなたにとっていちばん重要なことはなにか、いちばん意味のあることはなにか、改めて考えてみることをおすすめします。

これが決まると、あなたの鑑賞態度に一本筋が通り、あなた自身の主体性を維持しやすくなります。

「あなたにとっての絵画の存在意義」を意識し始めると、それがあなたにとって本当に重要なことであれば、脳が無意識にそれに関する情報を集めたがるようになります。

それまでは同じものを見ていても気が付かなかったところに、あなたの求める情報を見つけることができるようになるのです。


もしも「あなたにとっての絵画の存在意義」がなかなか見つからない場合は、次の方法をおすすめします。

それは、

「できるだけ多くの絵画にふれる」

という方法です。

特になんの目的も決めずに混沌に飛び込むのです。

具体的には、ジャンルも時代も作家も決めずに、あてもなく大量の絵を見るのです。

美術館でも画集でもいいのですが、実践しやすい方を選んでください。

あてもなく大量の絵を見ているうちに、なにか引っかかるものがあるかもしれません。

それは、説明できない好みだったり、わけのわからない違和感だったりするかもしれません。

でもそれは、あなたの無意識が拾い上げた、あなた自身も今まで気づかなかった、あなたにとって重要な興味の氷山の一角かもしれないのです。

そんな絵を自分なりに集めてみることをおすすめします。

あなたが絵画に求めているものを自覚するための材料になるはずです。

ぜひ試してみてください。


注意点:

ここで一つ注意すべき点があります。

それは、あなたが絵画に求める絵画の存在意義が、あなたにとっては重要なことでも、それを他人が共感してくれるかどうかは、また別の話です。

絵画鑑賞の場では、あなたにとって重要なことに他人も共感してくれたら、これぞ絵画鑑賞の醍醐味と言えるでしょう。

ですが必ずしもそうなるとは限りません。

自分の好みを追求しても誰とも繋がれないのであれば、少しさみしい気がしますよね。

お互いに好みや価値観の違うものどうしでも、共感し合える点がないものでしょうか。


ご安心ください。

芸術の世界では、好みや価値観を超えて共感し得る点が、実は存在するのです。

特に絵画に関しては、「画家の個人的な目的や鑑賞者の好みを超えた、絵画の真価を見極めるための基準」が存在します。

個人的な ”好み” や ”価値観” や ”目的” を超えたこの基準が、人と人とをつなぐ助けになります。

ですから、あなたがこの基準に特に反対しない限りは、「あなたにとっての絵画の存在意義」をどこまで追求しても、人とつながれる道が絶たれるわけではありません。




創造的絵画鑑賞法に必要なこと その2

第二に必要なことは、「あなた自身の感性」を自覚することです。

感性は他人と比べる必要もなければ、その良し悪しの基準もよくわからないものです。

感性を磨くということがよく言われますが、良し悪しの基準さえ曖昧なものをどう磨くというのでしょうか。

重要なのは、感性を磨くことではなく、あなたの感性に気づくことです。

誰もが日常生活では無意識に感性を働かせているため、改めて自分の感性を分析することなどあまりないと思います。

ですが、自分で何かを生み出す喜びを得るには、自分の感性を自覚していることは重要です。

ここで改めて、自分の感性を分析し直してみてください。

言語化することが一番効果があるので、可能な限り言葉にしてみてください。

思いがけない発見があるかもしれませんよ。


感性とは、あなたの知識、経験、感情、環境など様々な要素が長年に渡って、複雑に積み重なってできたものですから、たとえ自分のことでもいきなり言葉にはできないかもしれません。

そこで、まずはじめに、「感性に影響を及ぼすと考えられる要素」をいくつか挙げてみましたので、これを参考にして、あなた自身の感性を捉え直してみてください。

※このリストは人によっては、もっと長いものになるかもしれません。
 

  • 単純、複雑、のうち、どちらを重視するか。
  • 論理、感情、直感のうち、どれを重視するか。
  • 視覚、聴覚、触覚のうち、どれを重視するか。
  • 具体的なもの、抽象的なもののうち、どちらを重視するか。
  • どんな文化が好きか。
    ・伝統文化(茶道、華道、書道、剣道、柔道、弓道)
    ・伝統工芸品(染物、こけし、着物)
    ・伝統芸能(落語、歌舞伎、日本舞踊、能、狂言、舞子)
    ・サブカルチャー(漫画、アニメ、ゲーム、声優、アイドル、芸能人、サイバーパン  ク、オカルト、鉄道)
    ・宗教、音楽、料理、絵画、哲学、文学、ファッション
  • どんな自然環境が好きか。
  • どんな人生だったか。
    ・平穏無事
    ・過酷
  • どんな性格か。
    ・開放性が高いか低いか。
    ・誠実性が高いか低いか。
    ・外向性が高いか低いか。
    ・協調性が高いか低いか。
    ・神経症的傾向が高いか低いか。
  • どんな趣味を持っているか。

創造的絵画鑑賞法の実践

ここでもう一度、創造的絵画鑑賞法の2ステップを確認しておきます。

1.あなたにとっての絵画の存在意義を自覚する。

2.あなた自身の感性に基づいて絵画を観る。

ここまでで、「あなたにとっての絵画の存在意義」と「あなた自身の感性」という創造的絵画鑑賞にとって必要な道具は揃いました。

後は、あなた自身の感性に基づいて絵を観るだけなのですが、それにはちょっとしたコツがあります。

それは、あなたの感性を創造的に働かせるためのコツです。


先程私は、創造の定義を次のように考えました。

創造とは、「すでに存在するものどうしの新しい関係を創ることによって、新しい意味を生むこと」

ですから、「あなた自身の感性に基づいて絵を創造的に観る」とは、「”あなた自身の感性” と ”絵画” との新しい関係を創ること」と言いかえることができるのです。

これからお話するのは、”あなた自身の感性” と ”絵画” との新しい関係を創るためのコツです。

もう少しお付き合いください。



”あなた自身の感性” と ”絵画” との新しい関係を創るためのコツ

これは、つぎの2ステップからなります。

1.あなたの感性に合った絵画を探す

2.その絵画を問題意識をもって観る。

この方法はごくオーソドックスな方法ですが、やり方次第ではあなたと絵画との既存の関係を壊し、新しい関係を創ることが出来ます。

具体的な方法を解説します。

まず、あなたの感性にあった絵画を探してもらいます。

例えば、「あなたにとっての絵画の存在意義」が「心の安定が得られる」ということであれば、あなたが実際に「心の安定」を感じた絵を探してください。

いくつでも構いません。

あくまでも自分の感性に基づいて行ってください。

この時、時代、地域、ジャンル、美術史の知識、様式などを超えて探すことがポイントです。

さらに、他人が分類した知識のフィルターを通さずに探すことがポイントです。

「自分の感性にあった絵画」が見つかったら、次は、「その絵画を問題意識をもって観る」段階です。

方法は簡単です。

先程の例で言えば、「なぜこの絵は、私の心を安定させるのか」というような問題を自分で作り、それを解こうとしながら観るのです。

どんな問題を作るかは、あなた次第です。

自由にやってみてください。

この過程を通して、あなたと絵画との間に新しい関係ができてくるのです。

この新しい関係は、きっとあなたにとって新しい意味を生むはずです。


いかがでしょうか。

特になんの変哲もない方法と思われるかもしれませんが、実際にやってみると効果抜群ですよ。

ぜひ、試してみてくださいね。



最後に、この章の冒頭であげた「創造的絵画鑑賞法」の2ステップをもう一度確認しておきます。

  1. あなたにとっての絵画の存在意義を自覚する
  2. あなた自身の感性に基づいて絵画を観る
     このための2ステップは次のとおりです
    1. あなたの感性にあった絵画を探す
    2. その絵画を問題意識を持って観る             


注意:「あなた自身の感性に基づいて絵を観る」とは、”あなたの感性” と ”絵画” との新しい関係を創ることです。

具体的方法は、「あなたの感性に合った絵画を探し、問題意識をもって観る」です。


補足:「あなた」と「絵画」の新しい関係を他人と共有できたら、絵画鑑賞はさらに有意義で楽しいものになるはずです。

もちろんいつもうまくいくとは限りません。

ですが、たとえ他人がすぐには共感してくれなくても、次のことを試す価値はあります。

それは、他人にとっての絵画の存在意義(他人にとって重要なこと)を考えるのです。

あなたが特定の誰かを想定して、”その人にとって重要なこと” や、”その人と共感しあうにはどうすればよいか” などを考えるのです。

この時あなたは、自分を基準にものを考えることから離れ、人の立場に立ってものを考えるわけです。

人の立場に立ってものを考えると言っても限界がありますが、少なくともその瞬間は自分の世界から出ている状態にあるわけです。

”自分を基準にものを考えない” を実践すると、次のような効用があります。

  • 自分の思考の癖を変えられる。
  • 自分では思いもしなかった発見をする。
  • 分析能力が身につく。

ぜひ試してみてください。



今回は、絵を見る行為が創造的な行為だということを知っていただくために、「創造的絵画鑑賞法」を紹介しました。

これは、ほんの一例ですが、「見る」という行為は工夫次第でいくらでも創造的になるものですから、この方法をきっかけに、今度はあなた自身でオリジナルの方法を考えてみてください。



最後に一言

もしあなたが絵画鑑賞を通して何かを生みだす喜び持続する楽しみを求めているのなら、ぜひ「創造的絵画鑑賞法」を試してみてください。

創造的絵画鑑賞法」とは、あなたにとっての絵画の存在意義を自覚して、「あなた自身の感性」と「絵画」との新しい関係を創ることです。

でもちょっとした注意点があります。

それは、あなたの本音を大切にしてもらいたいのです。

人は誰でも、他人の意見の影響を受けることがあります。

もちろんそれ自体は悪いことではありませんが、その影響の程度が、あなた自身の本当の価値観本音をなくしてしまうほどでは、本末転倒です。

あなた自身の主体性をなくしてしまっては、絵画鑑賞の魅力は半減してしまいます。

あなたの本音は、あなたの主体性感性創造性と密接に結びついています。

ですから、くれぐれもあなたの本音を見失わないようにしてください。

そうすれば、「創造的絵画鑑賞法」は、長く持続する楽しみをあなたに提供するはずです。

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