あなたは絵画を見たとき、それを解釈しようとしていませんか。
その絵が何を目的としているのか、何を表現しているのかを読み解くのもいいですが、自分がその絵に何を見るか、何を感じるかのほうが遥かに重要です。
なぜなら、あなた自身の主体性を発揮したほうがずっと楽しいはずだからです。
とはいえ、絵画には目的があり、それが目的にかなっているかどうかは気になるところです。そんなときは、絵画を評価する基準を大きく2つに分けると便利です。
ひとつは、A.『絵画の目的を考慮し、それが目的にかなっているかどうかを評価の基準とします』
もうひとつは、B.『自分の感性に基づいて絵画を見た結果、それが人に良い影響を与えるものかどうかを評価の基準とします』
この2つの基準を使うと、A.は『一般的な評価』になり、B.は『あなた自身の創造的な評価』になるわけです。
そこで今日は、A. B. 2つの基準についてお話します。
まず、A.に関しては、次の2つの知識についてお話します。
- 絵画の目的
- 東洋と西洋で異なる、自然、美、絵画の存在意義に対する考え方
この知識は、基本中の基本です。ここをおさえておかないと絵を評価する際に、混乱したり、収拾がつかなくなる事があります。
B.に関しては、自分の感性に基づいて絵画を見ることの重要性についてお話します。
「どのような絵画が人に良い影響を与えるか」については、人それぞれ様々な意見があると思います。参考までに私は、「対立関係の解消を追求した絵画は、人に良い影響を与える」と考えています。
*絵画の評価基準に関しては、さらに興味のある方は、『絵画の良し悪しが気になる方へ 当たり前なのに以外と見落とされている盲点』を御覧ください。
1.絵画の目的
絵画の目的は、大きく分けて次の2つです。
・絵に意味をもたせて、それを読むというスタイルの概念伝達型絵画
・色、線、明暗、といった造形手段で真理を追求する、真理追求型絵画
以上2つの型の表現方法と、問題点についてお話します。
概念伝達型絵画とは
概念伝達型絵画の表現方法として、
・象徴的な意味が込められた物を描く
・サインランゲージを使い、意味を伝える
・顔の表情や身振りで、感情表現をする
などが考えられます。
これらの方法を駆使して、王の権威付けのための絵画、信仰や教育のための絵画が多く作られてきました。
概念伝達型絵画の問題点
このタイプの絵画では、そもそも「サインランゲージ」、「身振り言葉」、「象徴」などについての知識がなければ意味を読み取れない、という弱点があります。昔は常識的な知識だったとしても、その伝統が永遠と続く保証はないわけです。
真理追求型絵画とは
真理追求型の作品については少し解説が必要です。
そもそも画家は絵画を通して、自分の『内的世界』と『目に見えるものを成り立たせている目に見えない世界』との間につながりをつけようとしています。
つながりをつけるとは、両者の間の本質的な関係を発見することだと感じています。本質的な関係とは、『対立する力どうしが、互いに損なうことなく支え合っている』という関係だと感じています。この関係を、画家は、色、線、明暗を手段として、発見しようとしています。
なぜなら、色、線、明暗は、関係において成り立つ造形要素なので、この性質を利用すれば、本質的な関係を発見できると考えているからです。
抽象的な説明ですみません。この点に関して興味のある方は、誰も教えてくれないし、意外と誤解されている『画家のものの見方』を画家本人が明かすをご覧ください。
真理追求型絵画の問題点
あなたはおそらく次の事実をご存知でしょう。
「同じ色でも、その隣にそれぞれ違う色を置くと、受ける感覚や印象が違ってくる」
これは、色が関係において成り立つことを証明する、一つの例です。
画家は、この色の性質を使って、本質的な関係を探って行くわけです。
画家が到達した、最終的に対立関係が解消されている地点を、力の表現の不足、自己主張の不足、緊張の弛緩、と感じる人もいると思います。
ですが、真理追求型の画家が目指していることは、自己主張ではありません。
あくまでも本質的な関係の発見です。
真理追求型の画家は、叙述に関することは絵画の領域をはみ出していると考えています。この点がなかなか理解されにくい点です。
2.東洋と西洋で異なる、自然や美に対する考え方と、絵画の存在意義
以下の表で、大まかにまとめてみます。
西洋 | 東洋 | |
---|---|---|
絵画は何の役に立つか | 自然(その他)を説明するためのもの | 自然(その他)を感じるためのもの |
自然とはなにか | 生きるために利用したり、折り合いをつけたりするもの 人間中心主義 | その中の一部で人間が活かされているもの 自然中心主義 |
自然と美との関係 | 人間が自然に手を加えることで、美になる | 自然そのものの中に美を見出す |
すべての絵画がこの分類に当てはまるわけではありませんが、特徴的な差はこのようなものです。
この違いを知っているだけでも、絵画の真意を見間違うことが少なくなります。
3.絵画鑑賞における感性の重要性
絵画鑑賞は、数学のテストのように、すでに答えが用意されている問題を解くことではありません。絵を見ることはそれ自身一つの創造的な行為です。
絵画鑑賞は、自分の感性に基づいて、新しい発見、新しい解釈を生むことも可能な、創造的な行為です。
すでに評価の定まった作品を見るとき、「誰かが分析した評価」に対して共感するのは構いませんが、本当に自分の感性に基づいていなければ、それは共感とは言えません。共感とは、自分の感性を働かせた者どうしの間でしか成り立たないことだからです。もちろん「誰かの分析結果」は、自分の感性に基づいて絵を見ているときでも参考になりますし、自分の気づかない点に気づかせてくれることもあります。
でも、本当の楽しみは、『自分の感性に基づいて新しい発見をしたり、新しい解釈を試みたりすること』ではないでしょうか。
評価の定まらない作品や、現代の作品であればなおのこと、あなたの感性の働かせ方次第で、新しい解釈が生まれる可能性は高いわけです。
そしてその新しい発見や解釈を他の人と共感しあえたら、これこそ、絵画鑑賞の醍醐味です。
『私が信じるのは、私が見ないもの、私が感じるものだけである』
これは、ギュスターヴ・モローの言葉ですが、これはまさに画家の本音です。
画家は基本的に、感じたことを描いています。もしもあなたが、画家が感じたことに興味をお持ちなら、まず、あなた自身の感性に基づいて絵を見ていただきたいのです。あなた自身がその絵をどう感じるかが出発点です。
そうすると、感性を働かせた者どうしである、あなたと画家との間に共感が生まれるかもしれません。もちろんそうならないかもしれません。
いずれにせよ、その理由を掘り下げていくと、あたらしい解釈や発見につながる可能性があります。
4.絵画鑑賞における言葉の重要性
絵を見るだけでも充分に創造的な行為だと思いますが、見て感じたことを他の人と共感しあえたら、より創造的だと思いませんか。
他の人と共感し合うときに助けになるものが、言葉です。
画家が言葉で説明できることをわざわざ絵にする事はありませんが、絵から受ける感覚を言葉で説明しようとすることはあります。
感覚は、実際に同じように感じた者どうしでないと共感しにくいものですが、言葉の影響で感じ方が変わり、共感し合えるようになることだってあります。
「絵は見て感じるものだ。感じることが全てだ。だから、感じられる人だけがわかればいい」などと言ったら身もふたもありません。見て感じることは重要ですが、人の感性には差がありますし、感じるまでの時間にも差があります。
それに、今まで感じられなかったことでも、ある言葉がきっかけで、感じられるようになることだってあります。ですから、感性を働かせるときも、言葉は重要な補助手段になります。
5.感性に基づいて鑑賞する方法
感性を磨く方法を私は知りません。
そもそも感性は一朝一夕に磨けるものだとは思わないからです。
なぜなら、感性は、あなたの「長年の経験」や「日常生活での様々な要素の積み重ね」でできたものだからです。それに、感性は人と比べる必要もなければ、良し悪しの基準もよくわからないものです。重要なのは、感性を磨くことではなく、感性に気づくことです。
方法1.自分の感性を改めて自覚する
日頃、自分の感性を意識しながら生活することはあまりないと思います。
感性は無意識に出てしまうものだからです。ですが、絵を見て感じたことを他の人に説明するときには、自分の感性を意識できている人のほうが有利です。
なぜなら、自分の感性を意識しているということは、言葉で説明できる用意があるということだからです。そこで、感性に影響を及ぼすと考えられる要素を以下に挙げておきますので、あなたの感性を改めて分析してみてください。
尚、これは、一般的な要素なので、さらに、あなたなりの要素もあるかと思います。
感性に影響を及ぼすと考えられる要素
a.好き嫌い
・単純なものが好きか、複雑なものが好きか
・概念伝達型絵画が好きか、真理追求型絵画が好きか
・視覚、聴覚、触覚の中でどれを重視するか
b.日常生活環境
c.人生経験
d.性格
e.頭のタイプ
・直観型か、論理型か
方法2.好き嫌いから始める
実際に絵を見るときは、まずは好き嫌いを探すことから始めると、自分の感性を見失わずにすみます。このとき、好きを極めるのも一つの行き方ですが、嫌いに注目すると、自分の感性との衝突を通して、新しい発見をすることもあります。これも試してみることをおすすめします。
6.まとめも兼ねた画家の本音
画家は、ある目的を持って絵を描きます。極力その目的にかなった作品にしようとします。ところが、自分を100%コントロールできないもの事実です。
なぜなら、制作過程で、無意識の領域が関与してくるからです。この点が、一般的な実用品や、サービスとは本質的に異なる点です。
絵画というものが、純粋に目的にかなったものにしにくい以上、画家は絵画を、少なくとも何らかの良い影響を与えるものにしたいと思っています。
特に真理追求型の画家は、自分たちが探し求めている本質的な関係は、人に良い影響を与えるはずだと信じています。
ですが、画家の目的がどうあれ、いちばん重要なことは、絵画は見る人(あなた)のためのものだということです。ですから、あなた自身の感性に基づいて見ることを最優先するべきです。
人がなんと言おうがあなたの感性が感じたのであれば、それを最優先するべきです。
そして、強く感じたことであれば、人の共感が欲しくなるのが人間です。
このとき、言葉の助けを借りながら、人と感覚を共有する。
これこそ絵画鑑賞の醍醐味ではないでしょうか。
ぜひ、この点について、改めて考えていただけたら嬉しいです。
Kindle電子書籍販売中!
絵画鑑賞は好きだけど、絵画の評価に自身が持てないあなたへ
その原因は、たった2つの極意を知らないからだった!
芸術を見極めるための必須条件を詳しく解説
芸術を見極めるために必要なのは、たった1つの知識と、たった1つの感覚です。知識といっても、美術に関する書籍や解説書に載っているような知識ではありません。感覚も、特別なものではなく誰もが日常生活で普通に働かせている程度のものです。ところがこの2つは、芸術を見極めるには、必須の条件だったのです。
2つの極意を知るだけでも、あなたの鑑識眼がレベルアップします。
コメント