絵は基本、見るためのものですから、鑑賞者であるあなたが主体となって、鑑賞方法を決めることが重要です。ですから、あなたがご自分の感性に基づいて自由に楽しく、絵を見ることを、まずは強くおすすめします。でもそれじゃ物足りないという方は、造形要素に注目することをおすすめします。そこで今日は、
- なぜ造形要素に注目する必要があるのか
- 造形要素を評価するとはどういうことか
- 具体的にはどうすればいいのか
についてお話します。
なぜ造形要素に注目する必要があるのか
造形要素とは、線、色、明暗を基本とする画家の表現手段のことです。
絵を見るとき、最初に、何が描かれているかに注目すると、鑑賞者の個人的で具体的なイメージに左右され, 先入観が入りこむことがあります。
それを避けるためには、造形要素に注目するといいわけです。
なぜなら、最初にこれらに注目すると、何が描かれているかよりもどう描かれているかに必然的に注目することになるからです。
また、好き嫌いを超えた評価をしやすくもなります。
ただし、デメリットもあります。
造形要素に注目するには、ある程度の分析的な態度が必要になりますが、それが行き過ぎると、パターン思考を招き、絵の真意を見落とすことがあるのです。
また、分析ばかりしていると、肝心の感動が薄れてしまいます。この点、注意が必要です。
造形要素を評価するとはどういうことか
造形要素を評価するとは、
「線、色、明暗」が目的にかなった使われ方をしていて、効果を上げているかどうかを評価すること
です。
言葉にすると当たり前の話に聞こえますが、意外と実践しにくいと思います。
その理由は、そもそも絵画を鑑賞するときに、その目的をいちいち意識しながら観る人が少ないからです。
でも、造形要素を評価するときは「絵画の目的」を意識する必要があります。
ここで絵画作品を目的別に大きく2つに分けてみます。
1.概念伝達型
2.真理追求型
概念伝達型の作品の場合、その目的は意味を伝えることですから、画家が伝えたかった意味がよく伝わったかどうかが、評価の基準になります。
線、色、明暗といった造形要素そのものよりも、それによって作られた形や意味のほうが重要です。
一方、真理追求型の作品の目的は、真理の追究です。
ですから、画家が目指す真理がよく伝わったかどうかが、評価の基準になります。
でも、画家の目指す真理がどのようなものかわからなければ、やはり、どう評価していいかわからないですよね。そこで、真理追求型の作品を描く画家が、何を目指しているのかについて少し説明します。
抽象的な説明になることをお許しください。
画家は何を目指しているか
画家が目指していることを説明するには、デザイナーと比べて観るとわかりやすいかもしれません。
一般的には、すでに存在するものを、これまでにない方法で組み合わせることで、新しいものが生まれます。
この点において、デザイナーと画家の違いが出てきます。
- デザイナーの仕事とは……すでに存在するものの新しい関係を創ることで、新しい意味を生むこと
- 画家の仕事とは……………すでに存在するものの本質的な関係を発見することで、本質的な意味に気づくこと
真理追求型の作品を描く画家は、新しい素材や、新しい表現方法を工夫することはありますが、「新しい意味」を生むことは、仕事の中心ではありません。
本質的な関係を発見すること(真理の追求)が仕事の中心です。
問題は、どうやって本質的な関係を発見するかです。
画家は、「絵画とは空間を自分のものにする行為」だと考えています。
つまり、「内的世界」と「目に見えない世界」との間に繋がりをつけることだと考えています。
ここで言う「目に見えない世界」とは、「目に見えるものを成り立たせている世界」のことです。
画家が絵画でやろうとしていることは、自分の「内的世界」と、「目に見えない世界(目に見えるものを成り立たせている世界)」との関係を「本質的な関係」にすることです。
画家のやり方はこうです。
画家は、「内的世界」と「目に見えない世界」のちょうど境界に色が存在すると感じています。
その色の関係がうまくいくと、「内的世界」と「目に見えない世界」との間に繋がりがつくと感じています。
そしてこのとき、両者の間に「本質的な関係」が実現すると感じているのです。
色の関係がうまくいくとは、色どうしの対立関係が解消されたということです。
対立関係が解消されたとは、『対立する力どうしが、互いに損なうことなく支え合っている』という関係が実現されたということです。
画家は、「内的世界」と「目に見えない世界」の境目に存在する「色」の関係を模索することで、「本質的な関係」を発見しようとしているわけです。
造形要素の評価の仕方
造形要素を評価する基準は、
線、色、明暗などが、目的にかなった使われ方をしていること
です。
真理追求型絵画の目的は、
対立する力どうしが、互いに損なうことなく支え合っている関係(対立関係の解消)を実現すること
です。
この関係が実現している絵画は、画面全体を一つのまとまりとして見ることができます。
絵を観るときに一番注目してほしいことがこれです。
絵画は決して、バラバラの要素を寄せ集めただけでは、成り立たない」という点に注目してもらいたいのです。
これは、写実絵画であろうが抽象絵画であろうが変わりません。
画面全体を一つのまとまりとして見ることができる絵画の特徴をいくつか挙げてみます。
- 造形要素が、相互に関連しあっている(例)ピエロ・デッラ・フランチェスカ パオロ・ウッチェロ アンリ・ルソー
- 複雑な形が使われていても、一つの単純な原理に基づいて描かれている(例)ヒエロニムス・ボス ギュスターヴ・モロー ヴァシリー・カンディンスキー
- 生き生きとした存在感が感じられる
観るときのコツとして、色を観るときは「色がつくる特定の形」を見るのではなく、「色そのもの」を観てください。
線を観るときも、「線がつくる特定の形」を見るのではなく、「線そのもの」を観てください。
そして、それらの色どうし、線どうし、もしくは「色」と「線」と「支持体」の対立関係が、どう解消されているかを見るのです。
対立関係の解消方法として、よく使われる方法として比較的わかりやすいものを挙げてみます。
- 異なる場所で、同じ形や色を繰り返すことで、相互に関連付ける
- 異なる場所の異なる形や色でも、位置や向きを工夫して相互に関連付ける
- いくつかの線の方向を関連付けることによって、一つの大きな方向(流れ)をつくる
- 色や線の強弱のバランスをとって、全体を統一する
これらは、よく観察すると見えてきますよ。
まとめ
絵画を鑑賞するとき造形要素に注目すると、先入観に左右されずに、好き嫌いを超えた評価がしやすくなるというメリットがあります。
でも、これが行き過ぎると、絵をパターンで見がちになり、絵に対する純粋な感動が薄れるというデメリットもあります。
造形要素を評価するとは、真理追求型の作品における造形要素の観察を通して、真理の追究が実現しているかどうかを評価することです。
画家の目指す真理追求とは、本質的な関係を発見することで、本質的な意味に気づくことです。
本質的な関係とは、対立関係が解消していることです。
画家は、『内的世界』と『目に見えない世界』の境目にあると感じている造形要素(線、色、明暗)の関係を模索することで、本質的な関係を見つけられると考えています。
これが実現している絵画は、造形要素どうしが、互いに取り替えが効かないものどうしのように支え合っていて、全体を一つのまとまりとしてみることができます。
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