画家と色彩の関係がわかると、絵画を見る目が変わる

美術批評
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あなたは、画家が色を使うとき、何を考え、何を感じ、色に何を求めているかご存知ですか。
今回は、
画家は色をどう捉えているか、
画家は色に何をさせたいのか、
画家は色にどんな可能性を感じているのか、などについて、お話しします。

画家と色彩の関係

色に関する学問的成果と画家の関係

色に関する、様々な研究成果や、視神経の生理的反応に関する研究成果は、画家に画家にどんな影響を与えてきたでしょうか。

画家はそれらの研究成果を、参考にし、都合が良ければ取り入れ、さもなけば、無視したりしてそれらと付き合ってきました。
科学的に解明されたことは、色の秘密のごく一部にすぎないと思っているので、科学的研究成果は、参考にする程度です。

画家と色との関係は、あなたが考えるより複雑で微妙です。

色は、客観的に把握できる物理的現象としての側面をもつからといって、それが人に与える影響も、客観的にとらえられるとは限りません。

知覚能力、好み、性格、文化的背景、地位、年齢、性別、などに応じて、色から受ける影響は人それぞれです。

画家は、そんな捉えにくい色の本質に迫りたいと思っています。

『色は、自然の秘密を解く鍵』

と画家は考えています。

『色は、人間には経験しきれない無限の法則に満ちている』

と画家は考えています。

ですから、画家にとって科学的研究成果などは、色の秘密のごく一部にすぎないのです。

画家は色をどう捉えているか

画家は色をどうとらえているのでしょうか。

『自然みずからが、その秘密の一部を、色を通して示している』

と考えています。

『人間が周りの自然と折り合いをつけるための手がかりを、自然は、色で示してくれる』

と考えています。

そう考える理由は、色が、人間の感覚や、感情や、体調に与える影響があまりにも大きいためです。

例えば、人間が自然に対して、引き寄せられたり、避けたくなったりするきっかけになる情報は、色ではないでしょうか。

また、自然環境の変化を我々が知ることができるのも色の変化がきっかけです。


では、画家が色を使うときは、色をどう考えているでしょうか。

画家の目的が、現実の色の再現でない以上、色を、表現手段の一つとして使おうと考えます。
そうすると、色の使い方は、基本的には画家の目的次第です。

画家の目的が何であれ、色がもつ次の法則

『色は、その隣に置かれた色との関係に応じて見え方が変化する』

この法則を利用しない画家はいません。

この、『色は関係において成り立つ』

という色の本質を踏まえたうえで、画家たちはそれぞれ独自の工夫をしています。

画家は色で何をしようとしているのか

色に込めた意味を伝えるという目的でしか色を使えなかった時代の画家は、その目的の大部分は意味の伝達だったため、色どうしの関係よりも色に込めた意味同士の関係のほうが、重要でした。

画家が色を使って独自の表現を試み始めたのは、ルネサンス以降です。

画家たちの目的はそれぞれ違っていても、色それ自身が持つ力を、表現のために利用し始めたわけです。
つまり色どうしの関係を使って、表現し始めたわけです。

ルネサンス以降のおもな画家が、色を使って何をしようとしたか、いくつか例をあげてみます。

レオナルドの場合
存在の重層性を重視した彼は対象を固定的なものとして捉えなかった。その対象を実現するための色も、色面という固定的なイメージとしてとらえるのではなく、流動的な粒子の集まりと考えた。そのため色を、微細な点として使った。(フスマート技法)
ティツィアーノの
場合

「変化に飛んだ色合いを持ちながらも、モノクロームのように見える画面」を実現し、緊密な感情を表現した。
ヴェロネーゼの
場合
・明暗によるモデリングではなく、中間色調によるモデリングを実現した。
・中間色調によって無限の多様性を実現した。
ベラスケスの場合
荒いタッチの連続によって、無限に変化する光を表現すると同時に、様々な部分を関連させ、緊密な空間表現を実現した。
プッサンの場合色面の組み合わせによって、構図を作った。
アングルの場合色面によって、線的で、平面的で、閉ざされた空間を作った。
ゴーギャンの場合
「色彩は、人間の経験の及ばない」と考えた彼は、色それ自身が持つ力に頼って、物語、情感、思考を表現した。
ゴッホの場合・自分自身を力強く表現するために、自由に色を使った。
・色の輝きや振動によって、永遠なるものを伝えようとした。
・微妙な色の変化によって、光の劇的な効果を実現した。
セザンヌの場合「線遠近法によらない色による奥行き表現」と「構図」の調和を実現した。
マティスの場色面の組み合わせそのものが表現になった。
・色や形を抑制することで、表現豊かな画面を実現した。
カンディンスキー
の場合
人間の内面性と響き合う色を使って、内的世界を伝えようとした。
クレーの場合美術の制作は、自然界の創造に 近いと考え、線や色の力に頼り「目に見えるものを成り立たせている目に見えない現実」を創造した。
・彼が使う線や色は、自然からの抽象ではない。
モンドリアンの場合最小限の色によって、豊かな絵画体験を実現した
ポロックの場合色のイメージに左右されない物質そのものとしての色(絵の具)に注目させた。

このように、歴代の画家たちがそれぞれ異なる目的のために、色を使ってこれたのは、色の無限の可能性、無限の多様性を信じていたからです。

色の可能性、多様性を支えているのが、先程もお話した、

『色は関係において成り立つ』

という本質的な性質です。
この性質のおかげで、画家の様々な表現が可能になるわけです。

画家は色にどんな可能性を感じているのか

色は画家にとって、最大の謎です。
どんなに、色に関する科学的な研究が進んでも、

『色は、人の経験の及ばない無限の法則に満ちている』

と画家は感じています。

色彩効果を狙ってやれることも少しはありますが、それは、色の秘密のごく一部にすぎませんから、生き生きとした存在感を実現するには、まだ知られていない色の可能性を模索するしかないと感じています。

色の可能性と言っても、無から有を生み出す可能性ではなく、ただ我々がまだ知らないだけの、色の潜在能力のことです。

その潜在能力を探るに当たって、忘れてはならないのは、

例の、『色は、関係において成り立つ』

という色の本質的性質です。

もし、色をめぐる関係を無限につくれるなら、色の潜在能力も無限にあるだろうと想像するわけです。


先ほど私は、

『自然みずからが、その秘密の一部を、色を通して示している』

と言いましたが、逆に画家が、色の潜在能力の発見を通して、自然の秘密の一部を知るわけです。

色を表現手段として使う画家にとって、色の潜在能力の発見は、この上ない喜びです。
私も色がうまく使えると、自然の秘密の一部を垣間見た感覚を覚え、いつも興奮します。

色は無限の潜在能力に満ちています。
画家は日々、その発見を目指しています。

まとめ

人が色から受ける影響は人それぞれなので、色は科学的研究の成果にもかかわらず、客観的には捉えにくいものです。

しかし、『色は、自然の秘密を解く鍵』

と感じている画家は、色の無限の潜在能力を探り続けています。そのときに手がかりとなるのが、

『色は関係において成り立つ』

という色の本質的性質です。

この性質を応用して、歴代の画家たちは、独自の目的を実現するために様々な表現を試みてきました。

これは、色の潜在能力を発見する努力でもあり、その成果は、自然の秘密の一部を知ることです。



絵を見るとき、画家が色に対して何を感じ、何を考え、何を求めているかに注目すると、あなたの絵を見る目は、必ず変わりますよ。

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